すっかり手放せないピットレック

 今更の話だが、キングジムの「ピットレック」というガジェットがある。それを1年以上使って、すっかり手放せなくなった。とても便利だと思っている。

ピットレックとは、私がひとことで言い表すならば「デジタル名刺入れ」である。今メーカーのサイトを調べてみたら、「デジタル名刺ホルダー」と書いてあった。どちらでも大した違いは無いだろう。

 欲しいと思ったのは、ごくシンプルな理由からだ。メールを送りたい、電話をかけたい、と思った時に、名刺をガサゴソと探して連絡先を調べる。その時間が無駄だと感じたのだ。

 私は従来、名刺はボックス型の名刺入れに入れて管理していた。なんとなくそうしていた訳ではない。その方法が総合的にベストだと思っていたのだ。

 私の職場では、名刺管理の方法に大きな2つの主流があった。ポケット式の名刺ファイルか、ボックス式の名刺入れである。私は後者だった。名刺が増えても簡単に放り込むだけで済むし、容積的にもコンパクトで済むボックス式の名刺入れの方が合理的だと思ったのだ。ボックスに付いていたタブを使って、会社名ごとに「あ行」「か行」「さ行」…と分類して保管していた。

 しかし、名刺が増えていくと、「あ行」の社名の中だけでも探すのに時間が掛かる様になる。かと言って、2文字目以降も五十音順に並べるのでは神経を使い過ぎる。ある時期、ローロデックスが欲しいと思ったりもしたが、上司の机の上に3台並べられてスペースを占領しているのを見たらドン引きした。自分もすぐにああなる。そしてさらに名刺は増え続ける。

 ピットレックを初めて見つけた時、まずはとても気になった。しかし、2万円近くする価格に、なかなか買う決心はできなかった。筆者は貧乏だし、ケチなのだ。筆者がピットレックを買った頃は、既にスマホが普及していた。筆者もスマホを使っていた。そこで数百円程度で手に入れられる、同様の機能のスマホアプリで代用できないかと思ってよく比較し、吟味してみたのだ。それにスマホアプリで済むならば、持ち歩くガジェットを増やさなくて済む。しかし、随分と吟味を重ねたのち、最終的にピットレックを買うことになった。

 買う決め手になったのは、とても名刺を読み取る作業がとても楽チンであった事だ。決められた溝に名刺をスチャッと挟んで、撮影ポタンをポチッと押すだけで、スキャンしたみたいにピントがバッチリ合ったきれいな撮影ができる。それを、OCR処理して、画像とデータを保存してくれる。そして、データは検索できる様になり、目的の名刺を早く呼び出す事ができる。OCRの読み取り精度は決して良いとは言えないが、USBでPCと繋ぐと編集も容易だ。ついでにデータのバックアップもできる。

 それに比べてスマホアプリの場合は、名刺の読み取りに手間取る。机の上に名刺を置き、フリーハンドで丁度いい位置にスマホのカメラを合わせ、手ブレしない様に気をつけて撮影するというのが標準的な方法だが、1枚撮影するのにだいぶ時間が掛かってしまう。そのためであろう、「使わなくなった」というレビューをよく目にした。

 ところで、「名刺をガサゴソ探す」というのは、こんな事を言うと失礼かも知れないが、「ロングテール」の連絡先に対して起こり得る現象だと思う。

 頻繁に連絡を取っている人は、メーラーソフトや電話の発着信の履歴で、簡単に連絡先が見つかる。名刺をガサゴソ探す場合は、たいてい、暫くご無沙汰している相手である。そしてたいてい、ご無沙汰になる相手というのは、名刺交換をした時点でなんとなく分かるものである。そんな名刺をもらった時、きっと筆者ならば、スマホカメラで一枚一枚位置を合わせて撮影するなんて、めんどくさくなり、徹底しなくなってしまうだろう。そしてそうやって撮影を怠った相手に限って、いつか名刺をガサゴソ探さねばならない事態になるのだ。そしていつまでも、その無駄な時間をカットできなくなってしまう。

 こうした筆者のシミュレーションは、だいたい当たっていたと思う。結果、ピットレックの読み取りはそこまでストレスを感じる事なく、もらった名刺をその日に読み取って、という習慣ができ、名刺をガサゴソ探す事は無くなった。

 このように、ピットレックは便利で、重宝している。今日、あまり話題に登るガジェットという気はしないが、地味な優れ物である。筆者としてはお勧めだ。これが無い状況は、もはや考えられない。もし壊してしまったら、きっとまた買うに違いない。ぜひ、この便利さを体験してみてほしい。