追われ者

追われ者   松島 庸    東洋経済新報社  2002



 主人公が強大な敵と絶望的な死闘を繰り広げ、果てに破滅に向かって行くストーリーというのはヒット作の中でも実に多い。なぜにそんなストーリーは人を魅了し、感情を強く揺さぶるのだろうか。 本書も、そんなストーリーのひとつである。



 かつて日米で株式上場を果たしたITベンチャー企業の若き経営者であった著者が数々の判断を誤り、周囲の人々の悪意、そして裏切りにより経営者の座を追われるまでを自ら振り返って綴った本だ。



 一方の当事者からの視点であるものの、著者が言うとおり、倫理や世間の評判などといった事に全く関心がなく、唯々金銭や地位にのみ執着し、その為に嘘をつき、約束を破り、人を罠に嵌める事を全く躊躇しないという価値観を持った会社や個人というものは確かに存在している。本書に登場する筋のひとつに私も仕事上接点を持った経験がある。







 著者は自身の数々の判断の誤りを告白しながら、そうした企業や個人の行動を観察して思惑を分析し、後悔の念や替わりに取るべきであった行動も記している。非常にショッキングでありながらおそらくは事実をとらえ、核心を突いているであろう。多くの人間にとってそれらは重要な教えではないだろうか。



 残念ながら著者は経営者としては失敗してしまった。しかし、経営者として挑戦し、会社を守る為に闘い、本書を発行された勇気に大いに敬意を表すると共に、非常に大事な教訓を伝えて下さった事に深く感謝したい。読み終えて敬虔な気持ちにならずにはいられなかった。







 300ページをゆうに超える厚さであったが、一気に読み終えてしまった。そしてしばらく呆然となった。いまだかつて一冊の本を読み終えてこれ程疲れたことが無いほど、色々な思いで疲れてしまった。しかし、多くの人に薦めたい一冊だ。

追われ者―こうしてボクは上場企業社長の座を追い落とされた [単行本] / 松島 庸 (著); 東洋経済新報社 (刊)