[続・通関士試験に少しだけラクに合格するには] カードを使った勉強法は有効か?

カードでの暗記は有効なのか?

通関実務の科目に苦戦する人からの相談

通関士試験になかなか合格できないという人から、勉強方法について相談を受けた。

その人はまず、通関業法、関税法等の科目で順に合格点をクリアできるようになったそうだ。しかし通関実務の科目で合格点をクリアできない状態が続いてしまっているという。

ふだんの勉強方法を尋ねてみると、色々改善できそうな部分が見つかったのでアドバイスしたところ、無事に合格することができた。

その人はなるべくお金が掛からないようにと、スクール等に通わずに、ネットのショッピングサイトで購入した市販の教材を使って受験勉強をしていた。基本的な発想も、使っている教材も、概ね私と同じだった。

謎の教材「統計品目カード」 

しかし、私の勉強のしかたとはひとつはっきりした違いがあった。その人は「統計品目カード(別名「通関士カード」とも言うらしい)」という、謎の教材を持っていた。

先に合格した私は、そんなカードは買っていない。それどころか、存在すら知らなかった。興味津々で訊いてみると、品目の数だけある97枚のカードをめくっては眺めて、統計品目を暗記しようとしているのだと言う。なるほどたしかに通関士試験では「純粋に記憶だけでしか正解できない」みたいな問題が例年2-3問程度は出題される。

そんな教材があったのか。私もそれを使えばもっとラクに合格できたかも知れないのに。そう思いながら、ちょっと見せてもらった。いろんな教材が次から次に発売されるものだ。よく考え付いたな、と感心してしまう。

「統計品目カード」実際の使い勝手は?

しかしカードを借りて触ってみてすぐに私は思った。

「…これ…しょうもないやつだ。まんまと高額な役立たずを掴まされたな…」

もちろん思っただけで口には出さない。せっかく貸してくれたのにそんな事を言える訳がない。しかし困ったものだ。こういうもので勉強をしていたら、確かに合格できないだろう。なんとか嫌な気持ちにさせる事なく、うまく伝える事はできないだろうか。悩んでいると相談者の人のほうから訪ねてきた。

「どうですか? そのカード、使いやすいですか?」

「…えーと…そ、そうですね」

グダグダな返事を返すと、相談者の人は食い気味に言った。

「やっぱり、あんまり使えないんですかね…」

すっかり見透かされていた。そういう表情が顔に出てしまっていたのか。たしかに最初は面白いと思った。しかし少しの間触ってみて直感的に感じたのだが、これは使いづらいし、何より受験対策に役立ちそうもない。

そもそも、モノとして扱いづらい。まず思うのが『枚数が多い』。トランプの約2倍もある。ほぼUNOの枚数だ。ある品目のことがふと気になって、探し出して確認しようと思っても、100枚近くもあるカードから目的のものがまあ見つからないわ見つからないわ。探すだけでとにかく時間がかかる。探しているうちに何を調べようとしていたのか忘れてしまうだろう。

これよりは、例えば冊子になっている方が、「この辺に書いてあった」という記憶だとか、コードの並び順だとかが使えるので、目的のものがもっと早く快適に調べられて断然実用的だろう

モノとしての扱いづらさには目をつぶったとして、学習方法にも難がある。個々の品目についてバラバラに暗記するという手法自体も苦痛なうえに効率が悪い。

そういう方法よりは、分類された品目をある程度のかたまりのグループにまとめて記憶するとか、特徴的なものをまずは覚えて、関連や対比で周辺に展開するとか、他の部分の学習を通じて理解してきた通関の様々な事情と、輸出入される品目との関わりについて、リンクさせながら記憶に留めるとか、何かしら個々の情報を別のものと関連させて覚えたほうが、ひたすらバラバラでランダムな暗記の作業をするよりも苦痛が少ないし、より少ない時間で目標の情報量の暗記を達成できるのではないか。

このカードよりも使えるものには、例えばタダで見られる税関の公式サイトの関税率表のページなどがあるだろう。スマホやPCのブラウザのお気に入りに登録しておいて、ふとしたすき間時間にでもちょいちょい参照できるようにしておけば、そのほうがよっぽど使える。

そんな考えが、数十秒間のうちに私の頭の中を駆け巡っていた。

カードで品目を暗記する人のイラスト

カードの使いづらさの件を切り出してみる

しかし、その相談者の人が4,980円も払ったというカードがまるっきりの役立たずだという正直なこの気持ちを、どう伝えたら良いのか。

たいして親しくない人ならば、私は胸のうちに秘めたまま、決して話す事はないだろう。愛想笑いと共に「いいですねコレ」なんて耳障りの良い事を言って終わりだ。

しかし、この人は自分のことを相当頼りにしてくれている。そして私も、この人にはどうか合格して欲しい。そう思える相手だ。

ためらいつつも、意を決してストレートに切り出してみた。

「このカードで勉強するの、あんまり効率のいいやり方じゃないと思うんです」

すると意外な反応が返ってきた。

聞けば、相談者の人は自分自身でも、統計品目カードはあまり得点力に結びつかず、効果的でないと薄々勘づいていたというのだ。にもかかわらず、支払った金額が高かった事が頭を離れず、とことん使い倒さなくてはもったいないという心理だとか、他の人とはちょっと違う道を選んだ結果が間違いだったと認めて、来た道を引き返す様な行動を取りたくないという心理が働いて、カードを使った学習方法をズルズルと続けてしまったとも話していた。

また、試験勉強が思ったよりもハードで、正攻法で正面からぶつかって行く事が辛くなってきて、逃げ道を探していた様な部分もあったという。そんな、心がグラついていた所でばったり出会ってしまったので、自分を救ってくれるものみたいに信じたくなってしまったのだと言う。おいマズいぞ。まるでカルト教団に入信してしまう流れみたいじゃないか。ずいぶん赤裸々に話してくれたものだ。

ある種の混乱に陥ってしまった状態だったが、人に話す事で、自分の行動を見つめ直し、冷静さを取り戻し、再び学習の優先順位を判断できるようになった様子だ。「おかげで吹っ切れました」なんて、お礼まで言われてしまった。

「統計品目カード」との決別とその後の学習方法

大したアドバイスなどしていないのに、お礼なんて言われたら、こちらも放ってはおけない。お礼に見合うような手伝いをしなくては。まずは前を向いて、新しい作戦を立ててみよう。

これまでの学習方法の問題点を洗い出し、そして改善するためにじっくりと話し合った。結論として、アドバイスした主な内容は、次の事だ。

  1. カードを使って学習するのはやめて、別の学習メニューに時間を充てたほうが良い。
  2. 統計品目表なんていう膨大な情報量のもの全体を暗記なんかしようとしない。そもそも暗記するなんて事が無理なのだから、輸入申告・輸出申告の問題ではわざわざ輸出統計品目表と実行関税率表の抜粋を問題に添付して出題しているのだ。税関の公式サイトを見れば、全体をまとめて掲載しきれないので分類ごとに分割して掲載しているほどの情報量だ。
  3.  時間があったら、バラバラのカードでなく、税関の公式サイトの関税率表のページを見る。部や類の並びをふくめ、分類のしかたの「傾向」や「クセ」を把握したり、過去の出題を頼りに出題されそうな注や備考など、押さえるべきポイントを絞り込んだら、単なる丸暗記でなく、世の中の様々な諸事情とリンクさせて頭に入れるように目を通していく。
  4. そもそも丸暗記しなければ正解できない種類の問題で点数を稼ぐという発想を持たない。そういう問題は配点も大きくないので、丸暗記の道を極めてその道の達人みたいになったところで大した点数のボリュームは稼げないし、たまたま記憶が曖昧な部分が出題されてしまえばその努力すら無駄になってしまう事もあり、不安定だ。できるだけ暗記した情報で得点するのでなく、考え方を身につけ、その考え方で正解を導き出して得点できる様になる事に注力する。暗記以外の部分で十分自信があるなら、丸暗記でしか解きようがないタイプの問題はまるごとバッサリ切り捨てるという大胆な作戦すらあっても良い。

後日、これを実践し始めた次の試験で、 無事にスパッと合格できたという連絡が来た。

「丸暗記」はどの程度やっておくべきか

 ただし丸暗記以外に解きようがない問題は一切合切バッサリ捨ててしまうのが良いのかと言えば、そこまでは思わない。現実的なバランスとして、最低限度の事を暗記しておけば、それ以上は割り切って切り捨ててしまうという辺りが、ちょうどよい辺りだと思う。では、その最低限とは何か。私なりの答えはこうだ。

「直近10年の過去問題に登場してきたものだけを、出題と絡めて記憶しておく。 」

これで十分だ。しかしなぜ過去問題に登場したものを狙って覚えるのか? それは、出題されているものは何度も繰り返し出題されているものが多いからだ。タリフの端から端までの品目が、完全にランダムに、均一的な確率で出題されるのかといえば、おそらくそんな事はないだろう。

一般論として、資格試験の運営側は、「この受験者はちゃんと勉強してきたかどうか」という視点を持っている。「勉強してきた人は合格、勉強して来なかった人は不合格」という試験にしたいという気持ちが多かれ少なかれあるのだ。これは通関士試験だけではない。

一見すると「丸暗記していないと解答できない問題」というのが、実は「過去問題をしっかり勉強している人にとってはおなじみの出題」という場合は結構あるのだ。そして通関士試験にも、この事はかなり当てはまっている。

もちろん、その程度の暗記をするのに、4,980円もする統計品目カードをわざわざ買う必要なんてない。繰り返し言うが税関の公式サイトをチェックして、過去問題に登場したものをよく確認して、場合によってはワードやエクセルに部分的にコピペしたものを自分なりのポイント集としてまとめたりして、会社の休み時間や通勤の電車の中で繰り返し眺めたりするトレーニングで、お金なんてかけなくてもかなり効果が上げられる。

スマホで統計品目を暗記する人のイラスト

合格に本当に必要な事を冷静に見極める

塾の先生などは、「通関士試験に暗記は欠かせません」なんて事を言いがちだ。なぜなら、自分の教え方が下手なせいで生徒が知識を吸収したり、考え方を習得できなかったとしても、生徒本人の努力不足や記憶力の弱さに責任転嫁しやすいからだ。それだったら楽でいい。「やれ」とだけ言って、自分の授業の中身を向上させる研究なんてしなくていいのだから。しかしそんなポジショントークをまんまと真に受けて苦しい勉強のしかたを受け入れてしまい、挙げ句に不合格になってしまってはどうしようもない。

覚えるべきことを体系化したり、より少数のポイントに絞り込んだりして、できるかぎり丸暗記に頼らないようにして、苦痛が少ない割に得点力が上がるという受験勉強の指導をするという事は実際にできる事なのだ。例えば私のように「こんなのを丸暗記するなんて無理に決まっている」とはじめから言いながら、それでも合格点をクリアできた受験者は単なる理想論なんかでなく現実の世界に実在しているので、そういうノウハウも存在するのだ。

私は個人的に思うのだが、「ラクにマスターする方法ないですかね?」みたいな質問をしたときに、「そんな甘い事を考えるな」なんて多少怒ったりはしても、なんだかんだちゃんと相手にしてくれて、「あんな手がある」「こんな手がある」と、あれこれ引き出しを持っているみたいな先生は、いい先生だ。そういう人はだいたい地頭がいい。反対に、「ラクしてマスターするなんて絶対にできるわけがない」とか「そんな考え方はダメだ」の一点張りでそれ以上全く相手にしてくれないとか、お前の腐った根性を根っこから正してやろうみたない説教をしてくるとかいう先生は、ヤバい臭いがする。合格できた人ではあるのだろうが、そのためにずいぶん無駄な苦労をしてしまった人である可能性が大きい。そして生徒たちにも、苦労をさせようとする。私ならば、そういう人から物を教わりたいとは思わない。

それとこのカードに関しては¥4,980という、高すぎる価格が引っかかる。資格試験や検定試験というものには、 受験生の不安につけ込むような、怪しくて高額な周辺ビジネスがつきものだ。資格試験ビジネスというものは、ジャンルとして真面目な雰囲気があるだけに、物腰柔らかく誠実そうな雰囲気を出していれば、それだけで簡単に人を騙せてしまうという一面がある。人間誰でも、自分の不安に関して、お金を払って解決できるのなら、そうしたいという心理を多かれ少なかれ持っている。独学でチャレンジする受験者は特に、商売上手な輩の手の内を賢く見抜く判断も、自分ひとりで行う必要がある。人気や話題性に飛びつくのではなく、自分なりの理屈や合理性の判断軸を持って、その判断軸で物事を判断する習慣をぜひとも付けよう。

 

問題のカードを見てみたい人はここにあります


【通関士試験2022年度版】統計品目カード 貨物分類が得意になります

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