映画「グレタひとりぼっちの挑戦」を見て分かったグレタさんのこと

2021年に日本の映画館で公開されたドキュメンタリー映画「グレタひとりぼっちの挑戦」を観た。

この映画に興味が湧いたのは、2021年の夏の数々のニュースがきっかけだった。2021年の夏には、世界のニュースをみると干ばつ、洪水、高温と乾燥による山火事の大規模化のニュースがあまりにも多かった。それで私は気候変動や環境破壊がだいぶマズい事に既になっていて、もう放ってはおけないところまで来ているのではないかと感じた。それから私は気候変動の事を強く気する様になった。

グレタ・トゥーンベリさんは、世界の誰もが知る、今や最も有名な環境活動家のひとりだと言っていいだろう。しかし、私はグレタさんが実際にどういう事を言って、どういう活動をしているのかをよく知らなかった。しかし、今のおかしな気候の状況を考えると、知らないままで良いという気がしなくなってきた。そこで、このドキュメンタリー映画を見てみる事にした。この人が何を知っているのか、世界の人々は何をすべきだと訴えているのか、まず知ってみたいと思った。

この映画は、いわゆる密着ドキュメンタリーだ。グレタさんが気候変動抑制のための活動の第一歩をスタートするところから、クリアな映像で記録してある。カメラの撮影がプロによるのかアマチュアによるのかは分からない。最近は家電店で買えるカメラでも高画質な映像が手軽に撮影できる。とにかく、映像はたまたま近くに居た人のスマホで撮影されたものだとか、防犯カメラに写り込んだものだとかだけでできているのではない。映像のほとんどは、撮影者がカメラを回して、グレタさんを被写体にして撮影したもので、それを編集した映画だ。

映画を観た事で、満足な情報が得られた。時間を使って観るだけの価値がある内容だと感じた。この映画は多くの人にとって、特にグレタさんに関する情報があまり伝わって来ない日本の人々にとっては、少しでもその人物像に触れることのできる、観る価値のある作品だろうと思う。

日本のマスメディアが伝えるグレタさん

日本のマスメディアが伝えてきたグレタさんに関する報道は、グレタさんの日常的な活動のほんの一部だけを切り取ったもので、それもかなり特定の部分に偏っていたと思う。あるいは今も、偏っていると思う。少なくとも私の接しているメディアはそうだ。グレタさんは、多くのイベントに呼ばれてスピーチを行う。スピーチはいつも強い言葉と険しい表情で、緊迫感のあるものだ。そういう部分しかマスコミは報道しないので、私は正直、映画を観るまでグレタさんといえば、どちらかというと荒々しい、激しい性格の人だという印象を持っていた。スピーチをしたり、会見を受けたりする時以外の、オフのときにはどんな様子なのかを日本のメディアが報道しているのは、これまでに見たことがない。

グレタさんは、会議でのスピーチの以外にも、スウェーデン本国で座り込みストライキなども行ったり、各国の環境保護の活動家と会談したり、意見交換をしたりもしている。そしてもちろん、学校の勉強をしたり家族と過ごしたりもしている。そこに日本のメディアのカメラが入って取材する事には難しさもあると思う。日本から遠い北欧という地勢的な事情もそれを難しくしているだろうし、大きな会議や会見での発言にとても注目が集まる人なので、やはりグレタさんについて報道するとなるとスピーチや会見の場面の映像を、情報を待っている人々に伝えざるを得ないという事もあるだろう。

しかしあえてここで私が伝えておくべきだと思うのは、あの厳しく緊迫感のあるスピーチを行っているグレタさんを見るだけでは、グレタさんという人物のほんの一部しか見えていないという事だ。グレタさんは会議でスピーチをする他に、実に多くの活動をしている。スピーチや会見の映像だけでは「グレタさんとはこういう人だ」と認識するのにはあまりにも情報が不足しすぎている。もちろん、ドキュメンタリー映画一本を観ただけで、人ひとりの本質を理解することなど難しいだろうし、あるいはできないだろう。しかし少なくとも、観ると観ないとでは、映画一本分の情報量の違いがあるし、また、ニュースが全く取り上げないような部分の情報が少しであっても得られるという事に関しては、明らかに違いがある。

グレタさんの人物像

ニュースで見たところかなり激しい調子のスピーチを行うグレタさんなので、私は荒々しくてカリカリしている事の多い、どちらかと言えば気性の荒い人物なのかと思っていた。しかしこのドキュメンタリー映画に収められた多くのプライベートの映像を見ると、その印象はまるっきり異なるものに変わった。

普段のグレタさんは、どちらかというと穏やかでのんびりした性格の持ち主の様に見える。日常的に両親と仲良く過ごしている。笑っている時も多い。自宅で馬と大型犬をペットとして飼っているらしく、これらの動物と触れ合うのを好む様だ。大型犬は室内で暮らしており、ブラッシングをして世話している映像が映画に使われている。映画にはラップトップPCやスマートフォンを操作している映像が全体的に多く、他には一人でダンスをしている映像も何度か登場した。

アスペルガー症候群なのだと本人は話している。ただ、そこまで症状が重いようには見えない。言われなければ分からないぐらいだと私は感じた。

どちらかというと自分から他人にグイグイと積極的に話しかけていくような社交的タイプではなく、他人との距離感を少し遠目に保つタイプの様だ。かつて学校で意地悪な扱いを受けたという本人の発言があり、それはアスペルガー症候群が要因だと暗示する様な編集になっている。学校の食堂で、他の生徒と会話をする事なくひとりで給食を食べる映像が映画に使われている。

グレタさんに友達は居ないのか

地元の友達みたいな人物は、映画には登場しない。友達が居ないという事をはっきり映画が伝えている事はないが、そうである事を暗示する様な編集になっていた。

しかしながら、フランスの若手の環境活動家のグループの何人かの人物は、一般的に友人関係と言っても差し支えない位に親しくなっている様に、映画からは見えた。活動の合間にリラックスして会話をして過ごしている映像が使われている。因みに、グレタさんと面会した最初の国家元首はフランスのマクロン大統領だった。フランスは、グレタさんの活動への関心が高く、共感している人が多い国である様だ。

どちらかというとグレタさんは一人で居る時間を大事にするタイプで、人と馴れ馴れしくするような事はなく、親しくなった人とでも家族のように打ち解けるというタイプではない様な雰囲気は映画から見受けられる。しかし、少なくとも人と接する事を極度に嫌うとか、人に対してすぐに敵意を持つとか、競争や権力争いを好む様な人には見えない。

この映画は少し前の、2019年までの映像が主に使われている。共通した方向性の活動家との接点はその後ますます増えてきていると思う。今頃は志を共有し、意気投合する友人ができているという事は十分考えられると思う。

どんな活動をしているのか

座り込みデモから活動がスタートしたという映像になっている。

気候変動や環境破壊について知った時に強い危機感を持ち、自分にできる何らかの行動の必要性を感じ、それがデモの開始へとつながった様だ。デモは、議会の会議場の前に、「環境の為に学校ストライキを行っている」という意味の1枚のプラカードを置いて、気候変動に関するA4程度のペライチの資料を「ご自由にお取り下さい」という感じで置いて座る、というものだった。

映画には、まず最初に若い大人がデモに関心を示して「一緒に座ってもいいですか」と尋ね、会話を始めると、それがきっかけとなって次第に他の若い人も集まり始めたという様子が収められている。

グレタさんは主に本から環境や気候に関して情報収集し、学んでいるという。

現在の所、まず人々に環境保護や気候変動の抑制に関して関心を持つきっかけを提供するという事がメインの活動である様だ。この部分では、既に一定の実績を築いたと言えるのではないか。

具体的に環境を保護したり気候変動を抑制したりする手法について推進しているものがあるのかというとそういう様子ではない。しかしながら「できる事から始めるべき」という主張をしている。座り込みデモの実行は、自分が人々に対して訴えている事を自分自身で実践している事のひとつだと受け取れる。

学校の勉強はしているのか

学校の勉強は不足なくこなしている様だ。日本で言うと中学校に近いような学校を卒業する際の映像があった。そこでは学年に数名程度が選出される優秀者を表彰する映像があり、グレタさんはその優秀者に選出されていた。

平日にもデモを行っているため、授業の欠席は多い様子だが、宿題などの自学自習でカバーしている様子が色々と映画で使われている。一方で、学校はデモ活動に対して協力的だというグレタさん自身の発言がある。学校との関係性は良好だとみられる。おそらくスウェーデンは日本と比較した場合、多様性に対してより寛大であり、グレタさんの行っているような学校外での活動がサポートされやすい風土が整っているのだと思われる。

親が活動させているのか

両親のどちらも、グレタさんに指示や命令をして活動をさせている様子はない。基本的に、両親はグレタさんには自力で勉強させて自力で活動させている様子である。時折、グレタさんが完璧主義すぎるあまり困難が生じる場面で、リラックスを促す程度の助言をしている場面は映画に使われている。

グレタさんと父親との関係性は、いわば日本のタレントと芸能事務所のマネージャーとの関係性にだいぶ似ている様に感じられた。

グレタさんの知名度が上がり、遠方のイベントに招待される様になると、父親が移動に付き添ってサポートしている。父親は移動・宿泊・食事の手配、スケジュール管理などをサポートしている。しかし、活動の中身については基本的に口出しをしない。グレタさんが相談をすれば、その相談された事に関してアドバイスを返す程度の事にとどめているという様子が見られる。

本当に飛行機に乗っていないのか

おそらく本当に乗っていないものと思われる。映画ではイギリスの港から米東海岸までをヨットで移動する様子が撮影されたものが使われていた。ヨットは最新式のものだった。それでも飛行機による移動に比べて時間が掛かるし、波にはかなり揺られるし、飛行機に比べるとだいぶタフな移動であった様子だ。

その米国への到着の直後に、あの有名な、赤紫色の服を着て行われた国連の気候行動サミットでのスピーチがあった。それが2019年9月だった。

日本でグレタさんの存在が広く知られるきっかけとなったのはおそらくそのスピーチだろう。他の欧米先進国に比べると、日本でのグレタさんの存在や活動に関する情報が浸透するペースは遅いと思われる。

個人的にどう感じたか

個人的には、これまでのグレタさんの活動には共感できた。映画を見る前よりも、より支持したいと思った。実際にグレタさんの活動は、自分にとって環境保護や気候変動抑制に対する関心をより高めたと思う。

グレタさんは現在のところ、そこまで環境保護や気候変動抑制の具体的手法について指導するような立ち位置の人ではないので、その手法について多くの学びがあったかというとそうではない。しかし、映画の中で数少なく取り上げられた、グレタさんが言及していた環境保護の具体的取り組みの中に「新しいものをなるべく買わない」というものがあり、その部分はすぐに取り掛かりやすいと感じた。見栄を張らずに質素を心がけるという方針で生活すると、自ずと環境保護の方向性と多くの部分が重なっていくのではないだろうか。

この映画を観た事をきっかけに、自分も環境保護や気候変動抑制に関してより多くの事を実践していこうと思う。