日本人の多くがカーキとオリーブを混同
カーキってどんな色?
これはなんという色でしょうか。
答えは「カーキ」と思ったでしょうか。不正解です。
正解はオリーブドラブです。あるいはオリーブグリーンです。モスグリーン(グリーンモス)というのもとても近い色です。しかしカーキは明らかに違います。なぜそう言い切れるのかと言うと、モノづくりで国際的に使われるPANTONEの色見本がそうなっているからです。
それならばカーキはどういう色なのでしょうか。
カーキはこういう色です。
思ってた色と違っていたでしょうか。しかし間違いなくこれがカーキです。PANTONEのカーキです。
カーキという言葉は英語圏から日本に入ってきたようです。もともとは、インドのヒンディー語のカーキという言葉があり、それが英語に採り入れられたそうです。そしてそのヒンディー語のカーキとは「土埃」という意味なのだそうです。たしかにこれは土埃っぽい色です。逆に、土埃はオリーブや苔のような緑っぽい色なんかしていません。ですからその語源まで確認すれば、カーキがこういう色という事で納得です。
ベージュではないのか
上でカーキを見たときに、「これはベージュではないのか」と思った人、あるいは「そういえばベージュって色もあったよな」と思った人がいるのではないでしょうか。
ベージュはまた違います。こんな色です。
これまたカーキとは違う色合いです。ベージュとは、フランス語で染めていない羊毛の色の事を言うのだそうです。フランス語のベージュはそのまま英単語にもなっていますが、英語だと「ベイッジ」っぽく聞こえます。
これまで登場したオリーブドラブとカーキとベージュを3つ並べてみるとこうです。それぞれ結構違います。こうして見るとカーキはオリーブドラブとベージュの中間にあるぐらいの色ですね。
実際に、オリーブドラブとベージュを混ぜると概ねカーキに近い色になります。
色を混ぜるという事に関してついでに言うと、
- 黄色+黒=オリーブドラブ
- 黄色寄りのオレンジ+ミディアムグレー=カーキ
- オリーブドラブ+淡いピンク=カーキ
- カーキ+淡いピンク=ベージュ
こんな関係性があります。黄色と黒でオリーブドラブになるというのは、ちょっと意外な感じがしませんか?しかし実際に混ぜてみると本当にオリーブドラブになりますので、関心のある人は絵の具などで試してみて下さい。
間違ってて何が悪い?
一般の消費者がカーキとオリーブを勘違いしているぶんには、別にそれほど問題は無いと思います。「この人、間違って覚えてるな」と思われる程度の事です。
しかし、日本ではよく、物を製造したり販売したりする事業者までがしょっちゅう間違っています。それが問題だと思うのです。誰もが知っている上場企業の超大手メーカーも実は間違えています。多くの日本人の間違いに合わせてわざと間違えている場合もあるのかも知れません。
例えば外国人のお客さんが「Khaki」だと書いてあるの見て、そういう色の製品を期待して注文したのに、実際に届いたものが明らかに違う色合いの「Olive Drab」だった、という事が起こってもおかしくない状況です。むしろ、起こっていないと考えるほうが不自然でしょう。
買ったお客さんが日本人ならまだマシです。言葉が通じるのでクレームを入れやすいですし、返品をするにも国内の荷物のやり取りで済みます。何なら購入者の側も同じ勘違いをしていて、頭の中ではオリーブ色を思い浮かべながら、「カーキ」と書いてある製品を注文するという場合すらあるでしょう。あるいは、日本人同士ならではの深読みができて、購入者はカーキは別の色だと分かっていながら、売り手がよくある間違いをしていると察したうえで、狙い通りにオリーブ色の注文するという場合だってあり得るでしょう。
しかし外国人だと、同じ様には行きません。日本人が色名を混同している事情など知らない人が多く、思っていた色と違う商品が突然届く事に、訳の分からない間違いとして困惑するでしょう。クレームを入れるにも、言葉が通じにくく不自由で、返品をするにも荷物のやりとりに輸出入が絡んで、相当な手間になってしまいます。
実態としてこの件で困った経験をした外国人の人は結構多いのではないかと思っています。色の名前を正しく知っている外国人に対して、日本人の一方的な勘違いによって返品や交換の交渉の手間を掛けさせてしまうのはよくありません。ましてや泣き寝入りさせてしまう事など言わずもがなです。できれば日本人全体が正しい知識を持ったほうが良いと思いますが、それが無理ならばせめて、外国人を商売相手にする日本の事業者ぐらいは、ちゃんとした知識を身に着けて商売した方が良いのではないかと思います。
最近、日本の技術力を自画自賛するようなテレビ番組が多いというのもひとつの風潮に感じられます。しかしこういう所で真摯にグローバルに対応して行かないと、いつの間にか世界からそっぽを向かれてしまい、気がつけば世界から取り残されていた、という事になりかねません。良い物を作る事はもちろん大事ですが、国際的なスタンダードを正しく知る事も大事です。
※この記事は1級カラーコーディネーターが、PANTONEのカラーブックの内容を参照して書いています。