100均の水筒はあえて「パッキンなし」を買うべし
パッキンが無くても漏れないので大丈夫
100円ショップの樹脂製の水筒が、安くて使いやすいと話題になっています。私も愛用しています。それらにはパッキンのあるものと無いものがあるのですが、パッキンの無いものがおすすめです。なぜなら、洗いやすく、清潔を保ちやすいからです。
私はセリアで買った、写真の製品を愛用しています。本体部分は「トライタン」という素材でできています。トライタンはキズ付きにくく高い透明度を保ち、衝撃に強く、化学的な耐性も強くて対応できる温度範囲も広いという、水筒の材質にはとても向いている、実に高機能なハイテクの樹脂素材です。100均の製品で採用されている訳ですから、おそらく価格も高くないのでしょう。非常に優秀な素材と言えると思います。そして、何といってもこの水筒のフタにはパッキンがありません。パッキンは無いのが良いのです。この点は譲れません。
ネットで検索すると、100均の水筒はパッキンのある物だと漏れなくて安心だという記事が多いです。しかし、パッキンが無いものでもちゃんと漏れないので大丈夫です。私は実際に水を満タンに入れた状態で通勤バッグに縦向きも横向きも気にせずラフに放り込んで、いわゆるマイボトルとして半年間ほど使用してきましたが、漏れた事などありません。パッキンが無いものを使用したら漏れたというネット記事まであるのですが、きっと作り話です。あるいは、フタをちゃんと締めていなかった等の、別の原因があるのではないかと思います。
業務用の「広口瓶」を知っていますか?
パッキンが無くても漏れないスクリューキャップ式のプラスチックボトルを作る技術は、既にだいぶ前に確立されているのですが、知っていますか。
業務用のプラスチックボトルに「広口瓶」と呼ばれるものがあります。液体を入れて保管したり運搬したりする時に使う容器で、写真の様なものです。実験室や工場などでよく目にする機会があります。
写真には黒と白のカラーのものが写っています。白っぽいものは半透明で内容量が外側から見て分かります。黒いものは内容物を光線による変質から守るために遮光性のある仕様になっています。
広口瓶のフタはスクリューキャップ式なのですが、それには大きく2つのタイプがあります。
- 中栓あり
- 中栓なし
中栓ありのものは、フタの中にさらに柔軟性のある中栓があり、その中栓がパッキンの様な働きをして漏れを防いでいるものです。もう一方の中栓なしは、精度の高い成形技術によって中栓もパッキンも無いのに漏れないというものです。中栓なしのほうが新しいタイプです。確かに、昔ながらの中栓ありのほうがより漏れにくいという事は考えられるものの、それは実験室や工場などでシビアに比較される場合の話です。水やお茶を入れて通勤や通学バッグで持ち運ぶ、という使い方では、どちらも適切にフタをすれば中身は漏れたりなどしませんので心配は要りません。
中栓なしの広口瓶のフタと、100均のパッキンの無い水筒のフタの内側を見比べると、とてもよく似た構造になっています。「インナーリング構造」と呼ばれる構造です。フタの内側にはインナーリングと呼ばれるリング状の突起があり、それがフタを締めたときにボトル本体のフチと上手いこと組み合わさって、漏れないようになっています。この構造になっている事が、100均のパッキンの無い水筒が漏れない事の裏付けと考えて差し支え無いでしょう。
インナーリング構造についての説明は、例えば広口瓶製造メーカーのサンプラテック社のウェブサイトで確認することができます。リンク先はこちらです。
広口瓶の価格は、中栓ありのものも無しのものもどちらも同じぐらいです。500ccぐらいの容量のボトルだと、買う場所や数量にもよりますが、だいたい1本あたり100円前後で買えます。インナーリング構造はほかにも、市販の飲料の使い捨てペットボトルのキャップでも見かける事があります。ですから、きっとじゅうぶん低コストで生産できる仕様なのでしょう。100円ショップ向けの水筒の製品にこのインナーリング構造を採用して生産したとしても、採算が合いそうです。広口瓶のフタと100円ショップのパッキンの無い水筒の蓋とを見比べてみると、インナーリング構造である点の他にも色々と似ている部分が多く、同じ工場で製造されている事さえも考えられます。
記事を書くならしっかりした考察を
しかし、こうした事まで調べていないであろうブログサイトなどが、せいぜいこれまでの一般常識で思いつく「パッキンを挟めば液体は漏れにくい」という程度の知識だけで短絡的に「100円ショップのパッキンの無い水筒は漏れる」「100円ショップの水筒はパッキンのあるもののほうが漏れなくて良い」という趣旨の、一種のデマとも言えるような誤った情報をたくさん流してしまっています。そのせいか、最近では100円ショップのプラスチック製の水筒は、パッキンのある製品が主流になってしまい、パッキンの無いものは少数派に追いやられてしまっている状況です。
果たして、
「パッキンを挟む事で漏れなくする技術」
「パッキンが無くても漏れなくする技術」
これらを比較したときに、いったいどちらがより洗練された高等な技術だと評価しますか。
雑菌が繁殖しやすいパッキンがなくても済むのならば清潔ですし、わざわざ取り外して洗う手間が減るので毎日のメンテナンスが簡単になります。よほど実用的です。
ところが商売としては、売れるものを作る必要があります。ネット記事の読者がパッキンのあるものばかりを買ってしまえば、生産者はいくらパッキンの無いものの方が実用性に優れていると思っても、人気のあるほうを作って売るという判断をせざるを得ないでしょう。
浅はかな知識による無責任な批評で、モノづくりの技術をわざわざ退化させてしまうのはもったいない事です。注意深く製品を観察し、理屈の通ったレビューを公開するようにしたいものですね。