フュージョンとスムース・ジャズ、どう違う?

フュージョンとスムース・ジャズ

スムース・ジャズについて調べていると、必ずと言っていいほどフュージョンというジャンルの話が絡んでくる。スムース・ジャズとフュージョンとは、一体どう違うのか? 細かい話は抜きにして、できるだけシンプルに書いてみる事にする。

  • フュージョンは、ジャズにロックやポップスが混ざったもの
  • スムース・ジャズは、ジャズにクラブミュージックが混ざったもの
  • ロック/ポップスとクラブミュージックとが明確に線引きできないのと同じで、フュージョンとスムース・ジャズとは明確に線引できないというか、かなり重複している
ベン図で表してみるとこんな感じになると思う。

フュージョンとスムース・ジャズの違いを示したベン図


あくまで話を分かりやすくするために、あえて若干乱暴気味に、個人的な解釈で言っているので、話半分ぐらいに捉えてもらいたい。ただ、私は仕事として輸入盤音楽CDの大手卸売のマーケティングをしていたので、そんなに大外れな事は言っていないと思う。

一般的にはフュージョンの方がスムース・ジャズよりもジャンルの括りとしては大きい。なのでレコード店に行くと、フュージョンのコーナーはあるけどスムース・ジャズのコーナーは無い、という店がけっこう多い。

ただし、便宜上売り場をそうしているからといってフュージョンとスムース・ジャズとが完全に同じという事ではないし、スムース・ジャズはすべてフュージョンに含まれるという事でもない。

例えばフュージョンとは呼ばれても、スムース・ジャズと呼ばれる事はない、みたいなアーティストが居る。ひとつの典型は、プログレッシヴ・ロックだとか、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル系みたいなロックっぽい雰囲気や要素が強いアーティスト達だ。曲調的には、変拍子やテンポ・チェンジを多用していたり、あるいは疾走感あふれるミディアム~アップテンポな8ビートが多かったりする。そんな曲調だと、スムース・ジャズという呼び方があまりしっくりこない。また楽器の音色的にも、ディストーションやコンプレッサーの効いたエレキギターがバリバリ目立っていたりすると、これまたスムース・ジャズという呼び方があまりしっくりこない。具体的にアーティスト名を出すと、アル・ディ・メオラだとか、マハヴィシュヌ・オーケストラだとか、ブレッカー・ブラザーズなんていうアーティストは、ゴリゴリのフュージョンだけれども、あんまりスムース・ジャズとは呼ばれないなあ、みたいな感じがある。
 
ギタリストのイラスト
 

反対に、スムース・ジャズとは呼ばれても、フュージョンとはなかなか呼ばれない、みたいなアーティストたちも居る。彼らのジャズは基本的にほぼいつも16ビートで、場合によっては打ち込みのビートで、ダンサブルなグルーヴ感を強く押し出しているタイプのジャズだ。サウンド的にヒップホップやハウスやアシッドジャズなど、割と最近めのクラブミュージックの雰囲気が多く混ざっていたり、何ならジャズ畑とR&Bやアシッドジャズの畑を行ったり来たりしながら作品をリリースしていたり、あるいはこれらのジャンルをまたいでお互いに客演をし合っているアーティスト達は、フュージョンと呼ばれる事はほとんどない、ゴリゴリのスムース・ジャズのアーティストの典型だ。例えば、ナジーとか、キム・ウォーターズとか、ロニー・ジョーダンなどはそうだ。「この人たちはどういうジャンル?」と聞かれたら、「スムース・ジャズです」と多くの人が即答するのだが、「フュージョンです」と答える人はあまり居ないし、そう答える人が居たらちょっと特殊な見方かなあ、みたいな感じがある。ただ、スムース・ジャズ専門の売り場を設けているCDショップなんてものはそんなにないので、CDショップで彼らの作品を探そうと思うとだいたいフュージョンの売り場にひっくるめて置いてありはする。
 
サクソフォニストのイラスト

もうひとつ言うと、フュージョンというジャンルよりもスムース・ジャズというジャンルの方が時代的に新しい。なので、かつてフュージョンというジャンルしか無かった時代にはフュージョンと言われていたのだけれども、スムース・ジャズというジャンルが新しくできて以降は、スムース・ジャズと呼ばれる様になった、みたいなアーティストも居る。ボブ・ジェームスだとか、ドナルド・バードだとか、ジョー・サンプルだとかはそんな感じだ。彼らのジャズは、激しさや複雑さといったものは控えめで、グルーヴ感がより全面に押し出されていて、現在のクラブミュージックに通じる部分が大きい。一時期はレア・グルーヴなんて言ってDJ好きの間で流行ったりもしたし、ヒップホップのアーティストには好んでサンプリングされたりもしている。しかし彼らがそういうスタイルの音楽をプレイし始めたリアルタイムの頃はおそらくまだスムース・ジャズという言葉が無かったのだと思う。だから当時はフュージョン、フュージョンと呼ばれて、今でもその名残みたいなものがあると思う。なのでクラブ・ミュージック的要素が多く、今の若い世代のスムース・ジャズのアーティスト達と音楽の内容的にはそんなに違いはなくても、レジェンドやベテラン達の世代だけは今なおフュージョンという呼び方をされる習慣が残っている、という感じはある。

色々長い説明になってしまったが、短く言えば、

「ロックっぽいのがフュージョンで、クラブミュージックっぽいのがスムース・ジャズ」

と言って、そんなに間違いではないと思う。 ただ、ロック的な要素も、クラブミュージック的な要素もどちらも混ざっている音楽性のアーティストも居るし、もっと多くのジャンルの要素も取り入れた音楽を演奏するアーティストも居る。そもそも、音楽のジャンルというものはそんなにスパッと線引きできるものではない。だからフュージョンとスムース・ジャズの間だってそんなに明確な線引きはできないし、フュージョンのアーティストとしても、スムース・ジャズのアーティストとしても、どちらとしても人気があるというアーティストが居たりもする。例えばエリック・ベノワやスパイロ・ジャイラなどは、フュージョンと言われても、スムース・ジャズと言われても、どちらも違和感もなければ、外れた位置に居る感じもしない。

ところで、最近のジャズの新譜でチャートを賑わせているのは、ほとんどがスムース・ジャズなのだ。だからスムース・ジャズの有名どころを見つけてみたければ、Billboardなどの最新のジャズチャートをチェックするというのも手っ取り早いひとつの方法だ。

あと、蛇足ながら一応最後に私のイメージを付け足しておく。あまりにも自分勝手なイメージなので、まるっきり無視してもらって構わない。

  •  フュージョンの人は、アキバ系ファッションをしている
  •  スムース・ジャズの人は、ちょいワルと言われたそうなオヤジのファッションをしている
  • フュージョンの人も、スムース・ジャズの人も、ファッションがオシャレな人は少数派である

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