テレワークにイトーキのサリダ YL9 という選択肢

ふだん私は共同住宅の設計を仕事にしています。そんな私はインテリアコーディネーターの肩書も持っていて、かつてはその業務をメインにしていた時期もあります。そのため、今でも知人からインテリアについての相談を受ける事がよくあります。

昨今のテレワーク需要で、住宅内に設置するオフィス家具の相談が増えました。

たまたま私は、かつて事業会社のオフィス家具を数百単位で発注する業務を担当していた時期があったので、この辺りの製品にはちょうど詳しいのです。

そうした中でもどういうわけか、イトーキのサリダYL2という製品が特に人気がある様で、この製品にズバリ銘柄を特定して「この製品どうなの?」とおすすめ度合いを訊かれる機会が急増しました。(その件に関する記事はこちら)

さらに最近になって、同じイトーキのサリダシリーズの、こんどはYL9という、さらに上位のグレードの製品についておすすめ度合いを訊かれる件数が特に増えてきました。何がきっかけなのか知りませんが、今までにこんな事はなかったので不思議です。

たまたま、YL2でイトーキ製品の良さにハマってしまい、もっと上位グレードに乗り換えたくなったと言っている人の話を聞くことができました。そういう人が他にも居るのかも知れません。

結論から言うと、YL9はおすすめできる製品です。私は何度も個別に相談を受けるたびにそのように返答しています。

何度も何度もそうやって相談に答えているので、買うかどうかの判断材料になるような大事なポイントをいちいち考えなくて済むように、そして伝え忘れるポイントが無いように、ここに書いておく事にします。 

この製品の、ひと目見てわかる外観の特徴的な部分といえば、パンチングされてメッシュ状になった樹脂製の板でできた背もたれです。

この構造は、米国のハーマンミラー社という高級家具メーカーの有名な製品「セイルチェア」という製品と多くの共通点があります。おそらく、イトーキのデザイナーはパクると言えば言い方が悪いですが、少なくとも何かしら意識ぐらいはしていたと思います。それぐらいの雰囲気はあります。

それでいて価格は、セイルチェアよりもYL9のほうがだいぶ安いです。とは言っても、その安いというYL9でも4万円近いです。オフィスチェアという製品カテゴリー全体で見て、高級とまでは言いませんが、決して廉価ではなく、中級品以上のグレードです。セイルチェアは高すぎて買う気がしないけれど、YL9ぐらいなら買ってもいいかなあ、それでもまあまあ高いよなあ、と考える人はきっと多いのだろうと思います。

そういう価格に対して気になるのは品質です。いくらセイルチェアよりも安いからといって、その安いぶんだけきっちりとセイルチェアよりも品質を落としてあります、みたいなえげつない製品であれば、さすがに誰だって4万円近くも払って購入するのには抵抗があるでしょう。

実際にどうなのかYL9をよく調べてみたのですが、そんな事はありませんでした。問題がないどころか、なかなかのしっかりした造りです。4万円近いという価格には十分見合っていますし、ハーマンミラー社の製品の価格も併せて考えれば、コスパの高さはかなりのものです。熱心なハーマンミラー社の支持者であれば、それでもハーマンミラー社の製品を選ぶでしょうが、この価格でこのデザインの品質で、しかもデザインまで似ているという事であれば、ハーマンミラー社の製品と比較して、YL9のほうに流れてしまうユーザーが居ても無理は無いだろうという印象です。

因みにイトーキというブランドは、国内オフィス家具の一流ブランドである事は誰もがよく知っていると思います。さらに、その筋の業界では、そのように一流と言われる中でもさらに、格が高い側に属しているようなブランドです。比較するのも気が引けますが、ぶっちゃけた話をしてしまいますと、同じ国内一流ブランドと言われている中でも、プラスなどと比べてイトーキは0.5ランクぐらい格上という見方をされています。いわば「上の上」のブランドです。

ところでこのサリダシリーズは、もともとがオフィス向けという事でなくSOHOなどの家庭ユース向けという、ちょっとめずらしい位置づけの製品です。そのため寸法やデザインが、住宅内で使いやすいものであるのは偶然ではなく、狙って設計されたものです。

ここで気になるのが、オフィス向けと家庭向けという違いが、製品の耐久性などの品質の違いにも反映されているかどうかという点です。もっと踏み込んだ言い方をすると、家庭向けということで、オフィス向けと比べて製品のグレードを落としてあるのではないかという事が、ユーザーとしては心配になると思います。

この点が気になって、よく調べてみたのですが、とくにオフィス向け製品と違う点は見当たらず、グレードを落としてある様な部分は無さそうな様子です。それではなぜわざわざ家庭向けという区別をしているのかというと、おそらく製品本体ではなく、どうやらロジスティクスの部分に理由があるのではないかと考えられます。

実は、イトーキのように、法人のオフィスで使われているようなオフィス家具を個人で1台だけ購入して家に届けてもらいたいと思っても、なかなか難しいのです。このようなオフィス家具メーカーの製品を買いたいと思ったらメーカーと取引のある卸売業者を通じた販路で入手しなくてはなりません。そういう販路の事業者は、小口でしか購入しないような個人相手には口座を開設しないというスタンスの場合が多いです。そうした事情から、個人がいくら買いたいと思っても、売ってもらう事ができず、諦めざるを得ない事が多いです。

一方で、このサリダシリーズは、アマゾンなどのショッピングサイトで個人が1台から手軽に買えるような流通体制になっています。製品の寸法やカラーリングといった部分が家庭での利用に向けたものになっているというデザインもまた、新しさの要素ではありますが、その流通体勢の違いこそ、これまでにない決定的な新しさだと私は感じています。たぶんですが、テレワークが浸透して、オフィス家具の需要が減った分、SOHOやテレワーク向けという、新しい販路を開拓していきたいというメーカーの意図があるのでしょう。

そんな訳で、このYL9は、サリダシリーズの中でもやや高価な事もあり、何かしら落とし穴みたいなものがあって、買ってから後悔するような事にならないだろうかと不安になっている人も居るかも知れませんが、特にそういう問題はないと私は思います。

パンチングされてメッシュ状になった樹脂製の板でできた背もたれは、素材自体の持つ弾性をうまく活かした構造で、通気性もある上に拭き掃除がしやすく、その点で実用的です。

ハイバックの背もたれの上にさらにヘッドレストが着いているので、少しリクライニングさせれば、着座したままで首を痛めることなく仮眠が取れます。5分-10分の仮眠を取る事でその後の仕事のパフォーマンスが大きく向上する場合は多く、また、テレワークだとそのような短い仮眠が比較的取りやすいケースが多いと思いますので、これもまた実用的な機能のひとつと言えます。

また、この形を見てゲーミングチェアを思い出す人も居ると思いますが、そういう用途でも十分使えるでしょう。むしろゲーミングチェアの上位互換という捉え方でも良いかも知れません。なぜなら一般的なゲーミングチェアは割と新興のメーカーが多く、イトーキほど精度が高く丁寧な各部の仕上げを行き届かせて生産できるようなノウハウを持つメーカーなどおそらく無いだろうと考えられるからです。

薄々買いたいと思っているけれど、一般的には見抜きにくい隠れた欠点が無いだろうかと心配になっているような人も、安心して買ってもらって大丈夫な製品だと思います。私は知り合いから「家具の専門家としてはどうなの?」みたいな問い合わせを受けたときには、その様に返事をしている製品です。

 

イトーキ チェア サリダ YL9 可動肘 ハイバック ブラック
サリダYL9の製品写真