通関士試験に少しだけラクに合格するには(その3) ─試験に適した電卓を買う─

少しラクに通関士試験に合格できる電卓とは

通関士試験が受験しやすくなる電卓がある?

 

通関士試験が受験しやすくなる電卓というものが、たしかに在る。

それは一体 、どういう電卓なのか?

ひとことで言えば経理実務向けの電卓というカテゴリの製品だ。そう言われただけではピンと来ない人も多いのではないかと思う。ざっくり言うと、電卓には、一般家庭向けの電卓と、業務用の電卓があって、その業務用の方だ。

電卓メーカーは、通関士用だとか、通関士試験用という専用の電卓を作って発売したりはいない。だから電卓メーカーの製品カタログに載っている製品の中から、通関士試験に適したものを選び出すのだ。試験に合った電卓を上手に選ぶと、受験が少しだけラクになる。少しだけ合格に近づいたと言っても大げさではないかも知れない。

電卓を手に持つ人のイラスト

こういう種類の電卓だと言われただけですぐに製品をイメージできる人は電卓にだいぶ詳しい人だが、そんな人は少ないと思う。なので、どういう電卓であるのか詳しく丁寧に解説したい。私自身、非常にありがたみを感じた製品なので、人にも自信を持って勧められると思っている。製品へのお礼の気持ちも込めて多くの人に伝えたい。

一般向けの電卓と決定的に違う部分は

経理実務向けの電卓と一般向けの電卓を比べると、機能についてはほとんど変わらない。そもそも、通関士試験の午後の通関実務の試験に持ち込む電卓は、計算機能のみの電卓でなくてはならない。関数電卓のような多機能な電卓は禁止されているものの典型だ。一般的な電卓に無い機能が追加されるという事は、試験に持ち込みできなくなってしまう危険にもなり得るので、歓迎できる事ではない。


では、機能的に変わらないのだとすると、どこに違いがあるのか。それは反応の良さだ。その反応の良さはどこから来ているのか。それはおそらく構造的な違いだ。経理実務向けの電卓と一般向けの電卓とでは、物質的な造りが明らかに違う。特に、キーの部分などはまるっきり違う。


経理実務向けの電卓のキーのパーツずっしり、しっかりとした構造で、キーが沈み込む時にブレにくい。そしてキーをはなせばキーはすばやく、しっかりと反発して戻ってくる。それでありながら、キーの沈み込みの抵抗感は、キーを押し下げる際に邪魔にならない。キーを押すのが苦にならないどころか、無意味に押したくさえなるぐらいの感触の気持ちよさがある。 

一方で、一般向けの電卓のキーのパーツは、軽くて薄く、簡素な造りである。人の指先の感覚とは敏感なもので、その違いは触ってみるとはっきり感じ取れる。

その違いがあると、計算をするときにどんな違いがあるのか。
 
まず、一般向けの電卓を使って計算する場合である。キーを押し込んでみると、上下左右に結構ブレる。急いで入力しようとすると、ミスタイプが多くなる。特に、キーの端のほうを押してしまったときに、ちゃんと認識されない事が多い。そのため、キーの中心近くをしっかりと押す様に、使い手が気をつける必要がある。

多くの人は、こういう品質の電卓を使い続ける事で、電卓というものは、扱いにコツの要る道具だということが無意識に刷り込まれているのではないかと思う。「電卓で計算するときには、いい加減なキーの押し方をしてはダメで、一回一回丁寧にキーを押してあげないと、ちゃんと計算できないよ。」という感覚はある種の常識だ。

しかし経理実務向けの電卓を使い始めると、この常識が覆る。使い手が電卓に対して気を使う必要などなく、電卓のほうがきちんと反応してくれる。キーのけっこう端の方を押してしまったとしても、まずほとんどの場合、思った通りの入力結果を返してくれる。キーの押し方に全く気を使わなくても良いとまでは言わないが、一般向けの電卓を使うのに比べたら、体感的には気を使う必要性が半分とかそういうレベルでなく、ひとケタ変わるぐらいの大違いだ。私が初めて使った時には、まるで使い手の気持ちを汲み取ってくれているかのような錯覚さえ感じた。

しかしそこに違いがあるにせよ、それっぽっちの事なんて大して受験に影響しないんじゃないか、と思う人が居るかもしれない。それは言葉で伝えてもなかなか伝わるものではないので、無理もない。けれども使ってみたらすぐに分かるはずだ。計算のボリュームが多く、スピードが求められ、しかも、僅かにでも正解と違っていたら全く得点をもらえない通関士試験では、経理実務向けの電卓の反応の良さが大きなアドバンテージになるのだ。まずは作業時間そのものが短縮できる。さらに、精神的なストレスも減る。使い始めれば、どんよりと曇っていた心が、明るく晴れ渡るような感覚さえ起こるのだ。もちろん個人差はあると思うが、少なくとも私は初めて使ってみたとき、そういう感覚を持った。

 
ちなみに経理実務向けの電卓に特有のずっしりとしたキーのパーツは、数字の表示が印刷されているのではない。文字の形をしたパーツと、背景部分の形をしたパーツと、異なる2色のプラスチックパーツを隙間なくぴったりはめ込んで組み合わせたもので、象嵌(ぞうがん)や螺鈿(らでん)の様な構造を持つ。これは、ヘビーユーザーがキーを膨大な回数タイプしても、印刷した文字の様に削れたり剥がれたりして消えてしまう事なく、長く使い続けられる様に、という耐久性に配慮した仕様だ。

キーの断面のイラスト
https://web.casio.jp/dentaku/sp/honkakujitsumu/(カシオ計算機株式会社)より転載


通関士試験の受験者にはあまり知られていない

これほど使いやすさを力説してきた経理実務向け電卓だが、通関士試験本番の会場では使っている人をほとんど見かけなかった。私にとっては意外だった。私が受験したのは2010年代後半で、けっこう最近の話だ。

それとは対照的に、かつて私が経理マンだった頃に受験した日商簿記検定では、受験者の多くが経理実務向け電卓を使っていた。試験ばかりでなく日常業務でも、仕事で顔を合わせていた公認会計士、税理士、企業の経理担当者など、多くの人が使っていた。

私自身はというと、当時は使っていなかった。経理の仕事にそんなに本気で取り組んでいなかったし、電卓代の出費を惜しむ気持ちもあって、安物を使っていた。それから少しばかり大人になった私は、当時の自分自身を反省し、通関士試験にチャレンジすると決めた時点で、カシオの本格実務電卓をすぐに手に入れた。買えばやはり使いやすく、試験勉強に取り組む気持ちも一層本気になれた。

通関士試験の会場で使っていた人が少なかった理由のひとつは、製品のネーミングのせいではないかと私は思う。もしも製品名に「通関士」という言葉が入っていれば通関士試験の受験者も注目しやすいだろうが、「本格実務電卓」などのネーミングでは自分たちに関係のある製品だとは気が付きにくいのではないか。

しかし通関士試験というのもまた、タイトな試験時間で、間違わずに、ボリュームのある計算をこなさなければならない試験だ。だからこの試験も、簿記検定、税理士試験や公認会計士に負けず劣らず、経理実務向け電卓との相性が良く、製品ならではの長所が十分に引き出される、うってつけの本領発揮の場面だ。だから私は、通関士試験ではこの種類の電卓を使うことを強くおすすめする。

 

通関士試験で役立つ電卓の細かい仕様のあれこれ


通関士試験むけの電卓選びでのポイントは、上に書いたキーの反応に関する事が圧倒的に大きいのだが、ほかにもいくつか細かいポイントとなる仕様がある。それは次のものだ。

  • メモリー計算のキーに、「MRC」がなく、「MC」と「MR」の2つがある。
  • 定数計算モードに入った状態を画面上に表示する機能がある(例えばカシオでは「K」の文字で表示される)
  • パソコンの「BackSpace」キーに相当する、1文字ずつ戻って修正できるキーがある(電卓の世界では「桁下げ」とか「シフト」と呼ばれたりもする) 
  • +/-(プラスマイナスの切り替え)のキーがある(「サインチェンジ」とも呼ばれる)。
  • ブラインドタッチができるくらいのゆとりあるキー間隔である一方、狭い試験会場でも邪魔にならないぐらい、適度にコンパクトなサイズである


これらのうち、サイズに関するものは、個人的な感覚で選びさえすれば良いだけなので機能とはまた異質な話だが、サイズ以外の機能については、上のほうで書いてきた、経理実務向けの電卓にはまず備わっているものばかりだ。

どうしても経理実務向けの電卓が買えない、あるいは買いたくない、という場合は、ここに挙げた仕様の有無は参考にできるだろう。一般向けのグレードの電卓でも、これらの機能を全て備えている製品はあるし、そういう製品を使えば、いくらか使いやすいのではないか。ただし、決しておすすめはしない。たとえこれら全ての機能を備えていたとしても、経理実務向けの電卓のように、キータッチのミスが減ったり、精神的な疲労が和らいだりする事と比べれば、ほんの僅かな違いでしかない。とんかつ定食に例えるならば、キャベツや味噌汁を充実させるような話でしかない。とんかつ本体のおいしさを求めるならば、経理実務向け電卓のキーの押しやすさにガツンと正面から挑んで行こう。

ところで、オマケの話をすると、むかしは、早押しのロールオーバー機能(複数のキーを同時に押してしまっても、記憶装置によりキーの押し始めの順序を厳密に判定し、計算に反映する機能。もしもこの機能が無いとキーを同時押しされた電卓はどうして良いかわからず、何もしないなどの反応をし、期待通りの計算をしてくれない。)というものは、高級な製品にしか実装されていないものであった。しかし今日では、経理実務向けに限らず、スタンダードなグレードの製品にも、幅広く実装されている。有名な国内メーカーの12桁表示の製品となれば、まず実装されている。そんな機能が普及した今日でもなお、キーの構造的な違いがもたらす違いは大きく、経理実務向けの電卓と一般向けの電卓のキータッチのしやすさには雲泥の差がある。

年に一度しかないチャンスに挑むならば


経理実務向けの電卓の弱点をあえて挙げるとすれば、いくらか値段が高い事だ。しかしそうは言っても一般向けの12桁電卓のせいぜい2倍~3倍で、安いネット通販で買えば数千円程度だ。一万円も予算を見ていればだいぶお釣りが来る。買う時にちょっと高い気はしても、電卓は、パソコンやスマホと比べれば耐久性があって故障しにくい上に、日に日に既発の製品が陳腐化していくようなものでもない。一度買ってしまえば、パソコンやスマホなんかよりも長く使える。日常生活でも一般的な事務仕事でも電卓の出番は意外に多いので、受験のために買ったものだとはいえ、幅広い場面で役立つ。だから元はしっかり取れる。よくよく考えれば、変化の激しいビジネスツールの中ではむしろ長寿命でコスパの高い製品と言えるだろう。

通関士試験の午後の通関実務の試験は、制限時間がかなりタイトだ。存分に練習を重ねて、準備万端に仕上げてきた受験者ですら、時間配分と残り時間を試験の間じゅう意識し続けなくてはならない様な試験だと思う。私自身、自分なりにはしっかり準備をして受験したつもりだった。それでも本番では、答案用紙を埋めきれたのは制限時間ギリギリだった。手応えはよくなかった。自己採点をすると、例年ならば不合格の点数だった。しかしその年の受験者全体の点数が低かったため、合格ラインが例年よりも引き下げられた。それでギリギリ合格した。私が試験会場に持ち込んで使っていたのは、経理実務向けの電卓だった。

もしも私が一般向けの電卓を使っていたらどうなっていただろうか。合格を逃していた可能性も、十分あったと思う。そして私の場合、経理実務向けの電卓の存在を知っていたし、それが使いやすい事も知っていた。それなのにあえて使わずに不合格だったら、相当激しく後悔していただろうと思う。翌年もまたもう一度受験費用を支払う。何よりも再びもう一年、辛くて憂鬱な受験生の暮らしが続く。考えてみただけでも恐ろしい。

経理実務向けの電卓が使いやすいのは試験の本番だけではなく、もちろん練習でも使いやすい。おそらくここでもメリットはあるだろう。練習問題を解くのにも少しずつ時間のムダをカットできたり、ストレスや疲労の蓄積が少なくて済むので、その分練習量の実質を増やせると思う。また、持っておくという事だけで、気持ちの上でも、自分には頼りになる相棒が居るんだ、という安心感が、色々良い方向に作用すると考えられる。受験が憂鬱で毎日しょんぼりしてしまっている人は、少し気分が明るくなる材料になると思う。

そんな道具に頼らなくても余裕で合格できる様な優秀な人ももちろん居るのだと思うが、 かつての私みたいに不安な気持を抱えながらチャレンジしている人は、かなりの効果が実感できると思うので、とにかくおすすめだ。


どんな製品があるのか


そんなに良いと言うのならば、具体的にどの製品なのかをはっきり教えて欲しい、と思う人もいると思う。そんな人のために、下に具体的なおすすめ機種のカタログを設けてみた。興味があったら画像か製品名をクリックすればアマゾンの商品ページで価格や仕様や外観写真を詳しく見る事ができるように、リンクにしてある。ちなみに、私も、少しでも安く買いたいと思って色々調べてみたが、アマゾンが安かった。安いうえに、スティックのりやポストイットなど、ちょっとした文具のおまけが付いてくるキャンペーンを時々やっている。

従来、シャープとカシオの2強体制が長く続いてきた様だが、定数計算の入力のわかりやすさなどがあってか、人気の面でカシオのほうがリードし、一人勝ち体制になりつつある様だ。私も定数計算の使いやすさから、カシオを使っている。ただ、どちらのメーカーに関しても、経営の効率化のため類似した製品の統廃合がここ1-2年の間にずいぶん進んでいる。つい数年前までは何種類か選べるような状況だったのだが、2022年にはついに、カシオもシャープも、カラバリやこまかい仕様のバリエーションを除けば、製品のラインナップはサイズごとに実質1種類ずつしか販売していない状況になった。それはそれで、迷わなくて良いという考え方ができるかも知れない。残った1種類の製品は、かつて数種類あった中でも最も使いやすい、フラッグシップモデルのような製品だ。



電卓選びに失敗した、と後悔する危険性が最も少ないモデルはこれだと私は思う。どれを選んで良いのか悩んだら、CASIOのこの製品をお薦めする。CASIO製は繰り返しの計算の入力方法が分かりやすい。CASIOの製品の中でも日数と時間の計算ができるこのモデルは、現在ベストな選択肢ではないだろうか。さらに、カラーリングは、特にこだわりが無ければ、キーのカラフルな色分けで視認性に優れたシルバーがより機能的だ。ただ、気に入った色の製品を使えばメンタル面に良い作用があると思うので、よほど気に入ったカラーがあるのなら、あまり神経質にならずに好きなカラーを選んだ方が良いだろう。

CASIO JS-20Dシリーズ (CASIO JS-20DC)

シルバー

ブルー


上のJS-20Dの日数・時間機能の代わりに、検算機能の付いたモデル。個人的には検算機能よりも日数・時間機能のほうが便利な気はするが、どちらでも通関士試験にはそれほど影響が無いので、どちらを選んでも良いと思う。ゴールドは、写真では少々分かりづらい色味だが、高級オーディオ機器でよくある様なシャンペンゴールドの様な、少し落ち着いた色だ。

シルバー
ピンク
ブラック

経営に関する不安も影響してしまったのか、最近はカシオにリードを許してしまった感の強いシャープ。長らくカシオと共にハイスペック電卓の双璧をなしてきた。定数計算はカシオとは異なる、いわゆる「シャープ式」の入力手順によって行う。 数字は全て左に、記号は全て右に、というキーのレイアウトもまたシャープならでは。2色展開。


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